太田敦雄 ACID NATURE 乙庭 その3

◆建築家・藤野高志さんとの出会い

太田さんが本格的に植栽家として活動を始めたきっかけは、建築家・藤野高志さん(建築設計事務所 生物建築舎代表)との出会いだった。

当時、たまたま引越しを考えていた太田さんが入居を決めたのが、藤野さん設計の新築庭付きの集合住宅。その内覧会で藤野さんと出会い、生物建築舎の活動や思想を知った。引渡し時には、砂利だけで仕上げられたミニマルな庭だったが、太田さんは「もっと生物建築舎らしく建築に寄り添う植栽ができるはずだ」と思い、建築を意識しつつ庭に趣味の植栽をはじめた。その「乙庭」に目を留めた藤野さんが、ちょうど計画していた自らの事務所「天神山のアトリエ」の植栽を、太田さんに依頼したのだ。

建築家・藤野高志さん。天神山のアトリエにて。

 

季節や時間とともに日々変化していく周りの環境をも取り込み、楽しめる建築を志向する「天神山のアトリエ」の植栽計画は、生物建築舎らしい独自の概念に満ちている。建物内部の床は建物の外と同じ土で作られ、屋内外の区別なく地続きとなっている。室内の土の床にも屋外と同じように植物が地植えされ、それらの植物が季節ごとに姿を変え、時間とともに成長する。ここでは、植物も建築と同様、空間の質を決定する重要な役割を与えられていた。

「建築の完成はストーリーの終わりではなく始まり。竣工以降、どのようにその建築が『生きていくのか』が大切」と藤野さん。

「天神山のアトリエ」(生物建築舎)の外観と植栽。(撮影/松島哲雄さん)

 

◆建築とともにある植栽

藤野さんに、なぜ太田さんに植栽を依頼したのか聞いてみた。

「まずは、建築を学ばれているので、建築の言葉で植物の話ができることですね。建築の人間はどうしても建築だけに目がいってしまうし、植物の専門家は植物のことだけに集中してしまいがちです。でも太田さんはその両方が分かり、建築をより強める植栽を提案できる。それと、植物をこよなく愛しながらも、ときにはドライな計画眼で植物を配していくところも魅力ですね」

最初の打ち合わせのとき、太田さんが持ってきたのは、植栽図ではなく、香りの瓶と数枚の香る葉だったという。

「天神山のアトリエは生物建築舎の事務所であると同時に、生物建築舎の活動を表す『宣言』でもあります。常に生活の傍らに寄り添っている植物。それを視覚だけでなく、常に感じられるように、敷地全体に『香りの風景』もデザインしています。」

現在、事務所の中央にはレモンユーカリが植えられていて、仕事中にもさわやかな香りが、気分をリフレッシュしてくれる。

事務所の中に植えられたレモンユーカリ(写真左)とカンナ(写真右)

 

この天神山のアトリエは、藤野さんの自宅も兼ねている。寝室は、夏涼しく冬暖かい、地下に作られており、その寝室の入り口にはクチナシが植えられていた。眠るときは、地上から甘いクチナシの香りが降りてくる。

太田さんは、その後も藤野さんと組んで、建築と植栽の一体的な空間を提案している。建築と植物のコラボレーションも「乙庭」太田さんを特徴づけている。

床下の寝室とその上に咲くクチナシ。

 

(その4に続く)

 

ACID NATURE 乙庭では、2012年7月20日から29日まで、藤野高志さん(生物建築舎)の個展「変わり続ける世界と私」展を開催(午前10時から正午、午後1時半から午後6時 火・水曜日定休)です。

藤野さんが描いたスケッチ。

 

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太田敦雄 おおた・あつお  1970年群馬県伊香保町生まれ。植栽家。立教大学経済学部卒業後、一度は東京でサラリーマンになるが、実家の設計業を引き継ぐために群馬に戻り、業務の 傍ら前橋工科大学で建築デザインを学ぶ。趣味で植栽を楽しんでいた自庭「乙庭」が建築家・藤野高志氏の目にとまり、植栽を依頼されたことから、本格的に植 栽家としての活動を始める。現在は建築と植物の融合を目指す植栽家として活動しながら、独自のセレクトによる植物の販売も行う。「ACID NATURE乙庭」代表。

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