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園芸家・辻幸治 その2 オオアブノメ事件

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◆ それまでに見たことのない植物を発見

近所の植物を採取しては標本にするのが趣味だった辻少年。その彼が標本作りから、植物の栽培、園芸へと軌道修正することになる出来事は、彼が中学2年生のときに起こった。

辻さんが当時住んでいた行徳付近、特に妙典は、もともと多くの蓮田(蓮を栽培する田)のある地域だった。しかし彼が中学生になった頃には再開発のための区画整理が進み、蓮田は埋められ、地ならしされていた。そんな区画整理され地ならしされた一角で、中学2年のある日、彼はそれまでに見たことない植物を見つけた。すでにかなり身についてきた自分の知識をもってしても、何の植物かわからない。何なのか調べようと思い、いつものように持ち帰り標本にした。

その植物の正体は何なのか。それは市川自然博物館の学芸員が教えてくれた。毎年夏休みに自由研究のために開かれるイベントにその標本を持っていったときのことだ。
「お、珍しい。よく見つけたね。これはオオアブノメだよ」


◆ 後悔、そして園芸への目覚め

その植物はオオアブノメ Gratiola japonica という水田や沼地などに生息する植物だった。もともとそれほどたくさん群生する植物ではなく、水田や沼地にしか生えない。昔は蓮田で見ることができたそうだが、区画整理され、蓮田がなくなった今では、もうめったにお目にかかれるものではなかったのだ。それが区画整理され地ならしされた場所から、奇跡的に生えてきたのだ。それは、ど根性オオアブノメだったのだ。

これがそのときのオオアブノメの標本

これがそのときのオオアブノメの標本

オオアブノメラベル

その後、市川市内で一度もオオアブノメは発見されていないという。
「自分が抜いてしまったオオアブノメが、この地に生えた最後の1本だったんだなー、そう思うと、とてつもなく悪いことをしてしまった気がしました。自分は貴重な最後の1本を抜いてしまった。抜いて標本にしてしまっては元には戻らない。それなら植物を生かす人間になろう。植物を抜くのではなく育てよう。そう思ったんです。それが園芸を始めたきっかけですかね」

このオオアブノメ事件により、辻少年は植物を育てる園芸に目覚めたのだ。
「趣味の園芸」を教科書に、パンジーやプリムラを育てるところから、彼の園芸キャリアは始まった。

注:オオアブノメは現在、環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。地方のきれいな水田などでは現在もときどき見ることができるそうです。

(その3へ続く)


辻幸治さんが所属する東京山草会ラン・ユリ部会が主催する野生ラン展が、2013年5月10日から12日まで、西武百貨店池袋本店の9階園芸売り場にて開催されます。10時から18時まで(最終日は16時まで)です。


辻幸治
辻幸治 つじ・こうじ  園芸家。1976年、大阪生まれ。江戸の園芸文化から海外のワイルドフラワーまで幅広く精通する。「趣味の園芸」にも講師として出演。書籍や雑誌の執筆・監修でも活躍。著書に『色別身近な野の花山の花ポケット図鑑―花色別777種』(栃の葉書房)など。

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