Session #3 ウルトラランナーにヴィーガンが多い理由

もともと僕がヴィーガンを始めたのはスコット・ジュレクというアメリカのウルトラランナーに影響されてのことだった。

彼は完全菜食主義者ながら、数々の100マイルレースで優勝した生ける伝説であり、その生き様は『EAT & RUN』という自伝にも書かれている。でもジュレクが特別というわけじゃない。ウルトラランナーのバイブルともいえる『Relentless Forward Progress』によれば、ウルトラランナーにおけるヴィーガンやベジタリアンの比率は一般の比率よりも有意に高いという。

ジュレク以外にも、世界100km選手権(2010年)やウエスタンステーツ(2012年)女子で優勝しているエリー・グリーンウッドや、50kmや100kmの国内選手権を何度も優勝しているマイケル・ワーディアンもベジタリアンだ。僕の大好きなトニーことアントン・クルピチカは、BlogのFAQやインタビューで「普段はローカルでフレッシュな野菜やフルーツを食べてるよ。ベジタリアンじゃないけれど、ちゃんと生産者が見える肉以外は食べないんだ」ということを言っていて、そのミニマムな生き方からは限りなくベジな生活が透けて見える(実際、ドキュメンタリー『Unbreakable』で彼自身が料理していたのはベジタリアン・パスタだった)。

海外ばかりでなく、日本のトレイルランニングのパイオニアである石川弘樹さんや世界的トップランナーである鏑木毅さんも、「菜食は持久力が増す」「回復が速い」という旨のことを述べている(石川さんは『EAT & RUN』の解説で、鏑木さんはランナーズ2009年3月号で)。お二人とも、実践されたことがあるのだ。実際、弘樹さんからその話を聞いた時には「よかったのだけれど、続けるのが大変だった」ということだった(やっぱり続けるためには「夕方6時まではヴィーガン」ぐらいがちょうどよいのかもしれないw)。

そしてこれは、トップランナーに限ったことでもない。先週僕はスリーピークス八ヶ岳トレイルレースを走ってきた。天気にも恵まれて、南アルプスの雄大な景色や遠くに富士山も楽しみながら極上のトレイルを走れる素晴らしい大会だった。僕が仲間に入れてもらっている「トレイル鳥羽ちゃん」というチームからはなんと30名超の参加があり、みんなで前日からコテージに泊まり、まるで合宿のようで楽しかったのだけれど、そこで夕食に振舞われたのが、Ultra Lunch(ウルトラ・ランチ)のヴィーガンメニューだった。

実はこのUltra Lunch、トレイル鳥羽ちゃんのリーダー(船長と呼ばれる)でもあるドミンゴさん(日本人です)が平日の昼に渋谷の文化村近くで開いているお店で、僕もよくランチでお世話になっているのだけれど、当日は贅沢にもチームメートを鼓舞する意味も含めて八ヶ岳まで出張ケータリングをしてくれたのだ。定番のひよこ豆のカレー(冒頭の写真のやつだ)に加え、赤レンズ豆のスープやベジミートソースとオクラのサラダ、それにご当地モノの信州そばを使ったパセリソースサラダなどご馳走が並び、質も量も大満足の私設前夜祭となった。

もちろん、ノンベジの人がちょっとレース前に完全菜食にしたからって体質が変わるわけではない。でも消化に負担をかけず胃腸にやさしい食事は、アスリートの中でも特にランナーにはメリットが大きいと思う。レース当日は早朝スタートの3時間前ぐらいにはしっかり炭水化物をとっておかなければいけない(つまり、寝起きでおにぎりを幾つも食べたりするわけだ)。レース中も、長丁場になれば絶えずカロリーを補給して(つまり何かしらを食べて)エネルギーに変えなければ、特にウルトラやトレイルなどのレースではエンストしてしまう。加えてランニングとは何時間も内臓を上下に揺らしつづけ、痛め続ける究極の内臓酷使スポーツに他ならない。「ウルトラとは大食い競争にちょっとランニングが加わったもの」という表現もあながち嘘とは言えないのだ。

僕は自慢じゃないけれども胃腸が弱い。とっても弱い。だからウルトラには向いていないと思っていたところで出会ったのが菜食だった。これなら胃腸にやさしいはずだ。実際、今回一緒に走った鳥羽ちゃんの仲間内でも、このUltra Lunchを食べたことで「レース前に“ヘルシーで安全なものを食べてる”感覚の安心感が強かった」、「レース前日に頂く食事としてあれ以上のものは望めない気が」、「ヴィーガン食はたっぷり食べても肉を食った時のようにお腹がはち切れるような膨満感がないことを実感していたところだったので、ウルトラディナーをレース直前たくさんいただいてもスッと胃に入り体にしみ渡る優しさを感じました」といった声があがった。

ウルトラランナーにヴィーガンが多い理由には、間違いなくここらへんの理由があるのだと思う。ついでに言えば、レース前の食事だけでなく、ランニング中の補給食だってそうだし(エイドでお肉をガンガン食べるランナーはいない)、僕はなによりもベジタリアンだと普段の練習後の回復力が違うという実感がある。それについては明治時代の人力車の車夫による面白い実験があるので、またの機会にぜひ紹介したい。

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EAT & RUN 日記

走ることで見える食、食べることで見えるラン

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松島倫明

(まつしま・みちあき)
NHK出版 編集局放送・学芸図書編集部チーフエディター 翻訳書の版権取得・編集・プロモーションに従事。ノンフィクションから小説までを幅広く手がけている。代表的なタイトルにアンダーソン『MAKERS』『フリー』、ヴォネガット『国のない男』、フォア『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』など。『脳を鍛えるには運動しかない!』という本を編集してからは、贅肉をとるためでなくポジティブに走るようになり、『BORN TO RUN』を編集して以来、裸足系シューズやサンダルで走るサブ4ランナーです。ジュレク の『EAT&RUN』の編集中に完全菜食主義の生活を3か月間体験し、メキシコ・コッパーキャニオンのUMCB(80km)でウルトラレース初完走しました。

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