30代のもやもやのまとめ 幸せになるための前提条件(前編)

「健康、仕事、家族の3つが幸せになるための前提条件だって? それ、全部じゃん。他に何があるんだ。自慢したいわけ?」

渋谷のダイニングバーで幼馴染に「幸せの条件」について話すと、彼はうんざりしたような表情で吐き捨てた。彼は専業主婦の妻と2人の子どもを抱え、好きでもない仕事で長時間労働を強いられ、給料にも満足していないという。疲れ果てて酒を飲んでいるのに、のん気でポジティブな話を聞かされたら腹が立つだろう。

確かに、今の僕はのん気な立場にいる。フリーライターになって12年目に入り、比較的得意な仕事だけに取り組めるようになった(もはや若手ではないので、ITや金融など明らかに不得意な仕事の依頼は絶えて久しい)。愛知に引っ越して出版業界の中心地である東京から遠くなったけれど、まめに移動しているので仕事は今のところ減っていない。交通費と手間がかかるが、僕よりは稼ぎの良い妻との二人暮らしなのでお金にも遊び時間にも不自由はしていない。妻の親族も含めて、家族関係も良好だと思っている。

でも、僕は幼馴染相手に幸せ自慢をしたかったわけじゃない。彼の状況を考えずに話したのは反省するが、最後までゆっくり聞いてほしかった。なぜ「健康、仕事、家族」の順番なのか。友だちや趣味は「条件」には入らないのか。とりわけ不幸ではないけれど平たんではない37年間を生きて来て、夜も眠れないような「もやもや」と向き合いながら、僕なりに導き出した「幸せに暮らすための条件と順番」。旧友と分かち合いたかった。

まずは健康について。30代の僕たちは加齢による病気リスクが高まるような年齢ではない。冗談で「もうトシだよ。酒にも弱くなったし徹夜もできなくなった。白髪も生えてきたしね」などと言い合うことがあるが、深刻さはまったくない。周囲からも「バリバリ活動する」ことを期待される年齢だ。20代の頃に比べると、仕事や家庭での責任は格段に重くなる。

だからこそ気をつけなければならないのは、うつ病の発症だ。予備軍も含めると30代のうつは本当に多い。僕の友人知人でも少なくない数が心療内科への通院を経験している。原因のほとんどは職場のストレスによるものだ。十分な睡眠時間すら確保できない過大な労働量、上司や部下との険悪な関係、傍若無人な顧客、そして何よりも不本意な業務内容……。

仕事とは辛いものだ、最近の若手は軟弱になった、我慢して続けるべきだという声も聞こえる。昔の人に比べると、僕たちは生きる力やストレス耐性が衰えているのかもしれない。でも、自分の身を守るのは自分しかいないのだ。辛抱した挙句に体を崩してしまったら、仕事はおろか生活すら維持できなくなる危険性が高まる。僕の後輩にうつが原因で結婚も考えていた恋人と別れてしまった男性がいる。健康を決定的に害するリスクだけは、なりふりをかまわずに避けなければならない。

いま、「グローバル競争」の名のもとに、労働者が守られにくくなっている。日本の産業界を長くリードしてきた電機業界ですら大規模なリストラが断行され、働く現場では非正規労働者だけでなく外国人労働者の姿が多く見られるようになった。仕事の奪い合いはすでに始まっていて、好条件の「正社員」への風当たりはますます強まるだろう。それを見越したように、若年正社員の使い捨てを前提に利益を上げる「ブラック企業」の存在も登場している。

就職氷河期を経験してロストジェネレーションと呼ばれた僕たちも、これから働き盛りの40代を迎える。だからこそ、心身の健康を保てる環境を自己責任で選択して維持していかなければならない。まさに「命あっての物種」だ。

次に、仕事について。生活するお金を得るだけではなく、自分の能力を活かして社会に貢献するために僕たちは働いている。人生を豊かにするための知識や情報、人間関係も仕事を通して得ることが多く、社会人としての責任感や自信も働きながら培われていくものだと僕は思う。

特に男性は、仕事がアイデンティティーに直結している。社名や年収を誇るのは時代錯誤だけれど、「少なくとも嫌いではない仕事をしていて、納得のいく成果を出している」ことは明るい表情で生きるための基盤となる。僕も例外ではない。

家族と仕事のどちらを優先すべきなのかは、性格や年齢、状況によって異なる。僕の場合は、仕事を優先することではじめて家族関係も円満に保てると実感している。苦い経験があるからだ。

30歳になる前後で、僕はフリーライターとしてのキャリアに悩み始めた。20代の頃は仕事の依頼が来ることがひたすら嬉しくて、何でも引き受けた。なぜかバンドのツアーマネージャーまでやっていた時期もある。

ただし、次第に欲と焦りが出てくる。「自分らしい原稿だけを書いて専門性とブランドを確立したい」「若手ライターとして便利に使ってもらっているのは今だけだ」と。そこで僕は特集記事などの請負仕事を断り始めた。数か月後には仕事量も収入も激減し、暇な時間だけが激増。週休5日制のような生活が始まった。

いま振り返ると、仕事が生活に占める重さを完全に見くびっていた。仕事がなくなると生活が立ち行かなくなること、自信も元気も失ってしまうことをリアルに想像できなかったのだ。3年後には消費者金融から借金をするまでになり、当時の妻に呆れられ、1年弱の結婚生活が崩壊した。

<後編につづく。後編は22日公開予定です>

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このブログは、青年と中年の間であるところの30代特有の「もやもや」について書いていきます。仕事、恋愛、お金、、、の悩み。30代は忙しいです。

絵/堀 道広(ほり・みちひろ) 1975年生まれ。マンガ家、イラストレーターとして活躍する一方、割れた陶器を漆で修復する「金継ぎ部」を主宰。著書に『青春うるはし!うるし部』『耳かき仕事人サミュエル』。

このブログについて

30代のもやもや

仕事、恋愛、お金…青年と中年の間、30代特有のもやもやをつづる。

ブログ著者

大宮冬洋

おおみや・とうよう
1976年生まれのフリーライター。ビジネス誌や料理誌などで幅広く執筆中。著書に『30代未婚男』(共著/NHK出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』(ぱる出版)ほか。食生活ブログをほぼ毎日更新中。
〇最新刊『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)
〇毎月第三水曜日には、読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を西荻窪で開催。

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NHK出版新書編集部

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フリーライター

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