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ローストビーフの翌日はカレー

あしたのカレー084

どうやらイギリスにおいて、ローストビーフとカレーはセットで考えたほうがよさそうです。
イギリスには「サンデーロースト」という習慣があります。「サンデーディナー」とか「サンデーランチ」とか言われてたりもするようですが、いずれにしても、一言でいえば日曜に肉を焼く習慣です。
ビーフやマトンやチキンやポークや、肉はなんでもあり。ともかく塊で買ってきて、シンプルに味付けをして低温に加熱したオーブンで長時間焼く。それを切り分けてグレービーと呼ばれるソースをつけていただくんですね。これを日曜の午後、ゆっくり時間をかけながら食事して楽しむ。
だから、イギリス料理といえば、今もローストビーフが有名なんです。
そこで、ここからが本題となります。サンデーローストはかなりの大きさの肉を焼くから、日曜に家族が集まったくらいでは食べきれない。肉が余るわけです。これを月曜以降、いろんな形で消費する。一般的なのは、コールドミートとよばれていて、ただ残りの冷たくなった肉を切り分けて食べる。ただし、ただの冷たい肉ではなく、さまざまなソースをつけて食べるようです。
そのほかにもスープにしたりいろいろと手を変え品を変えしてローストビーフを食べる。そんなバリエーションのひとつとして、カレーが親しまれていたようです。これは、大英図書館で見つけたミセスビートンのレシピにも何品も載っていました。レフトオーバーミートを使ったカレーというジャンルで。
だから、英国式カレーのメジャーなスタイルは、ローストビーフカレーだったことが想像されます。そう考えると、ロンドンのパブで日曜限定で出ているローストビーフなんかを食べる時にも気持ちが盛り上がります。
ミセスビートンのレシピや、ローストビーフの残り物カレーのことなどは、過去に日本国内で出版されたカレーの歴史に関する本にも記載があったりします。だから、世紀の大発見というわけではない。ただ、僕が調べを続行したところ、今まで日本に紹介されていない新たな事実が見つかりました。
ここでは詳しくは触れませんが、かいつまんで言えば、ミセスビートンのレシピは、ミセスビートンのオリジナルレシピではなく、当時のイギリス国内で作られていたカレーの投稿レシピだったということです。ここから何が推測できるか。それは、ローストビーフカレーが、あるレシピ本の著者の独りよがりの提案ではなく、当時イギリス全土で親しまれていたことの証となっているということです。
このことにたどり着いたとき、僕は小躍りしました。文献には一定の歴史的価値はあっても、その時代を映す鏡となりえるかどうかは疑わしいと常々思っていました。それは、30冊以上のカレー本を日本で出版してきた僕が著者として感じていたことでした。水野の本が何冊出されていても、水野が生きた時代にそのレシピが愛されていたことの証明にはならない。大事なのは、どれだけの人がそのカレーを作っていたかだったりするわけです。
イギリスのカレー、まだまだ奥が深そうです。

撮影・水野仁輔 2014年 ロンドン

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あしたの『カレーの教科書』~イギリス編

カレー番長、ロンドンに、日本のカレーのルーツを求めて

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水野仁輔

みずの・じんすけ◎カレー研究家。1974年、静岡県生まれ。
1999年に出張料理集団「東京カリ~番長」、2008年に日印混合インド料理集団「東京スパイス番長」を結成。これまでのカレーの出張料理の活動は300回を超える。
『カレーの法則』『カレーの鉄則』(ともに小社刊)をはじめ、カレーに関する著書は30冊以上。そのほか自らカレーに特化した出版社「イートミー出版」を立ち上げ、マニアックなカレー本の制作を行なっている。
2013年5月に、これまでのカレー研究の全てを記した『水野仁輔 カレーの教科書』(小社刊)を刊行。

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