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Session #7 パレオダイエットとランニングについて考える(2)

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すっかり半年ぶりのご無沙汰になってしまいました。

その間に僕は都内から鎌倉へ引越して、それまで以上にEAT&RUN生活を実践しております(その様子はこちらなどで)。前回ご紹介した「パレオダイエット」については、今でもゆるーく続けています。この半年余りで体重はきれいに減り、体調、整腸、睡眠なども良好です。今回は、この「農耕が始まる以前の低炭水化物食」について、前回の予告通り、「ラン」との関係についてさらに考察していきます。

この半年の間にも、パレオとランの関係については、いろいろと面白い記事が出てきました。もともと『BORN TO RUN』的な世界観(裸足やサンダルで持久走猟するような)とパレオ(原始人食)は親和性が高いという話を前回したのですが、それに加えて僕がパレオに興味を持ったのは、NumberDoに載っていた、プロ・トレイルランナー鏑木毅さんの「僕はカーボローディングしません」という一言でした(記事の一部がここで読めます)。

Autumn 2013号 「ランのABC」

Autumn 2013号 「ランのABC」

レース本番前の何日か、炭水化物(カーボ)を重点的に摂取して体内に糖エネルギーを貯めこむカーボローディングは、いわばランナーにとっての“常識”となっています。一方で鏑木さんは、糖エネルギーを使わずに「体脂肪」をエネルギーとして使って走っています。糖と脂肪の違いを簡単に言えば、糖はエネルギーに変換しやすいけれど、体内に蓄えられる量が少ない(最大で2000kcalほど)。逆に体脂肪はエネルギーへの変換がやや難しいけれど、1kgで約8000kcalほどになる。だからエネルギーを体脂肪から作り出せば、はるかに大量にまかなえることになります。

マラソンとウルトラでは違いがあるにせよ、これについてはランナーの間でもよく知られていると思いますし、鏑木さんも以前から繰り返し言及されてました(たとえばこちらに詳しいです)。基本的にはこの“脂肪燃焼体質”になるのはトレーニングの積み重ねで、心拍数を抑えながら長時間走を繰り返し、数年かけて体質を変えていく、といった方法論で紹介されます(上のNumberDOの記事でも鏑木さんは、「トレーニングの8割は、体を体脂肪を使えるようシフトさせるのが目的」と言っています)。

低心拍の運動なら体脂肪エネルギーを有効に使える

低心拍の運動なら体脂肪エネルギーを有効に使える

でもこの糖エネルギーと脂肪エネルギーのロジックは、実は低炭水化物食やパレオダイエットでもまったく同じです。つまり、体内への炭水化物の摂取を抑えることで、エネルギーを必要とする身体が、不足する糖ではなく体脂肪を燃焼させるように体質を変えるということですね。ならばもしかして、何年もトレーニング(しかも鏑木さんのような!)を積み重ねなくても、食事法を変えることで、無尽蔵の脂肪エネルギーを使って走るエンデュランス・ランナー体質になれるのでは? これが今回のボディ・ハックの発想でした。

そして、4か月ほど続けた今年の4月には、イギリスのBrightonで50マイル(80km)のトレイルレースを走ってきました。ローカルな大会のほぼ最後方で完走したわけですが、12時間も身体を動かし続けることが出来たわけで、信越五岳のレースで90kmを走って以来、半年間20km以上練習でも踏んだことがないまま臨んだレースとしては驚くほど身体が動きました。事前に充分なトレーニングを積めていないのでDNSも考えたのですが、あまりに体調が良いのでこれならいけるかなと思って直前になって出走を決意したぐらいです。

イングランド南部の丘陵地帯を走る80kのレース

South Downs Way 50mile: イングランド南部の丘陵地帯

こうしてみると、どうも「脂肪燃焼体質」になってきたことは確かなようです。僕のように、スピードは要らなくて自然の中のトレイルをゆっくり楽しんで長く走りたい人にとっては、理想的な体質かもしれません。では、ずっとパレオダイエットを続けていけば良いのかと言えば、事はそれほど簡単ではないようです。パレオや糖質制限のようないわゆる低炭水化物食については、いまだに専門家の評価が割れていますが、「効果はあるが半年以上続けるのは危険」という意見も多いようです(たとえばこちら)。

そんな中、先月にスポーツサプリVESPAの齋藤さんが確かFBでリンクされていた、VESPAのジェネラル・マネジャーへのこちらのインタビュー記事が非常に貴重なヒントをいろいろと与えてくれました。

Burn Fat for Fuel? An Interview with Peter Defty of Vespa Power(英文)
http://www.willrunlonger.com/2013/05/burn-fat-for-fuel-interview-with-peter.html?spref=fb

最近アスリートの間でも「脂肪を燃料に“fat for fuel”」という概念が広がっている背景として、糖よりも脂肪のほうがエネルギー貯蔵効率がよいことに加え、そもそも人類の多くは年に3〜5回、炭水化物をドカ食いしていたことを指摘します。そう、“一日に”ではなく“年に”3〜5回です。農耕が始まる以前には、果物が熟したり、ベリーがたわわに実ったり、蜂蜜に出くわしたり、そういう年に何回かの時期に集中的に糖を摂取して、あとは動物性の脂質からカロリーを主に得ていたというわけです。

年に数回まとまってですから、インスリンの分泌によって、当座必要のない糖質を脂肪に変えて蓄積することは理に適っています。あとで、その脂肪をエネルギーに再変換するわけですね。言うなれば現代の僕らは、その脂肪蓄積作業を毎日のように繰り返しているわけです。農耕以前の『BORN TO RUN』の世界でも、走り続ける人類たちは毎回カーボローディングはできなかったでしょうから、きっとこんなサイクルで脂肪を蓄え、それを後で燃やして走っていたのかもしれません(そういえば、『BORN TO RUN』の次作は、まさにこの脂肪について取り上げるようです)。

また、この記事で紹介しているのが、OFM(最適化された脂質代謝)への体質改善プログラムです。つまり、炭水化物を厳しく制限することによって、最適な脂肪代謝が可能な体質へとアスリートの身体を変えていくわけです(専門用語ではケトーシス状態といいます)。まさに糖質制限ダイエットそのままです。これは基礎体力作りの期間やオフシーズンにまとまって長期間行う、とあるので、体質改善に何年もかかるというよりは、たとえば一年のうち数ヶ月ぐらいでできるのかもしれません。ここらへんは詳しく聞いてみたいですね。

いったんOFMな体質になれば、筋肉のエネルギーとなるATPの生産が4倍に、脂肪酸が増えることで酸化ストレスや乳酸の蓄積が抑制されて、筋肉痛の軽減や疲労回復が早くなるといった利点もあるようです。これまで悪者扱いされがちだった飽和脂肪こそがエネルギーの源泉になる、というのも面白いですね。こうなるとカーボローディングは必要ありません。ただ、レース中は積極的に炭水化物=糖をとるのがいいようです。鏑木さんも「脂肪を燃やす着火剤としてのジェル(糖)」については言及されてました。彼が去年のレユニオン島のレースで、サポートクルーが間に合わずジェルの補給ができなくてDNFとなったのは記憶に新しいところです。

また、レース前日の食事としては、カーボローディングではなく、カーボ“スニーキング”を提唱しています。炭水化物をちょっと忍び込ませるイメージで、例えばリブアイとかTボーンステーキに、ベイクドポテトとバター、サワークリームと塩、といったお薦めメニューを挙げています(たとえばこちらのフライドビーフなんかもお薦めかもw)。バターとサワークリームは脂質ローディングのためでもあるのですが、同時にポテトの澱粉による血糖値の上昇を鈍らせる効果もあって、うまく糖を“忍び込ませる”ことができるそうです。

こう考えると、普段の食事はパレオ、前日まではファット・ローディングで、レース当日は炭水化物を摂取、というのがひとつの形として見えてきます。ひとたび体質が変われば、あとは勝負レースの前数ヶ月だけパレオ、という感じでもいいのかもしれません。こまれでの60年間、アスリートの食事はあまりに炭水化物偏重で、せっかく運動によって脂肪代謝を促しても、体質を変えることができなかったのだとこの記事は指摘します。その意味では、ダイエットとエンデュランスランの両方の分野で、同じ流れが生まれてきているのは本当に興味深いところです。

もちろん、上記の事例はすべてプロフェッショナルなランナーについての記述であって、僕のようなゆるふわランナー&なんちゃってパレオにどの程度当てはまるのかは、また別の話になるのでしょう。だからこそこの分野、ぜひもっと多くの知見を集めたいところですし、もう少し自分でボディハックを続けてみようと思います。今年の目標レース、信越五岳まですでに3ヶ月を切りました。

 

※低炭水化物食や糖質制限食については健康問題を指摘する研究や意見も多数あります。個人差もあるのだと思います。ここはNHK関連会社のブログではありますが、僕自身はこの分野のまったくの素人であり、このポストは個人的なボディハックによる経験談および他の記事の紹介の域をでるものではありません。試みる際は、ぜひご自身のご判断と勇気と責任でお願いします。

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松島倫明

(まつしま・みちあき)
NHK出版 編集局放送・学芸図書編集部チーフエディター 翻訳書の版権取得・編集・プロモーションに従事。ノンフィクションから小説までを幅広く手がけている。代表的なタイトルにアンダーソン『MAKERS』『フリー』、ヴォネガット『国のない男』、フォア『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』など。『脳を鍛えるには運動しかない!』という本を編集してからは、贅肉をとるためでなくポジティブに走るようになり、『BORN TO RUN』を編集して以来、裸足系シューズやサンダルで走るサブ4ランナーです。ジュレク の『EAT&RUN』の編集中に完全菜食主義の生活を3か月間体験し、メキシコ・コッパーキャニオンのUMCB(80km)でウルトラレース初完走しました。

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