太田敦雄 ACID NATURE 乙庭 その2

◆人生を変えた庭の写真集

群馬県伊香保町で生まれ育つ。家のすぐそばが山という環境で、子どもの頃はいつも山林で遊んでいた。

ゼンマイの芽吹きのときのフォルム、サラシナショウマのお香のような香り、ウラシマソウの不気味な姿など、当時、子供心に強烈に焼きついた植物の不思議な体験が、今の庭作りや植物選びに影響を与えていると思う、という太田さん。小学生の頃から図鑑が好きで、植物図鑑を暗記するほど読んでいた。育ててもいないのにやたらと植物に詳しくなったのはこの頃。

大学卒業後、都内のクレジットカード会社に就職するが、設計業を営む実家を引き継ぐため群馬に戻り、地元大学の建築学科に入り直す。建築で表現することをしたいと考えた。

そんな太田さんが、植栽による「ただ美しいだけではない」表現の可能性について気づかされたきっかけの本がある。

Derek Jarman’s Garden(デレク・ジャーマンズ・ガーデン)だ。

イギリスの映画監督で、ミュージシャンのミュージッククリップなどでも活躍したデレク・ジャーマン。 彼は1986年に HIVに感染していることが判明。この本は、1994年にエイズで亡くなる間際まで、原子力発電所の見えるドーバー海峡に面した村ダンジェネスで、彼が作り上げていった庭を記録した写真集だ。

海キャベツ Crambe maritima やハナビシソウ Eschscholzia californica など野草的な草花と海辺で拾い集めた石や漂着物で作られた、野生と人工が芸術的・聖域的に融合した孤高の庭。

表現者が、自分の生きた証として植物という命を使って土地に刻み込んだような、荒涼としていて、明るく、そして切ないデレク・ジャーマンの庭。「庭って人生や考えを表現できる空間、庭ってメディアなんだ」と深く感銘を受けた。

建築で表現をしたいと思っていたが、植物という生き物の変化していく姿や時間の経過をデザインしていく「植栽」という表現に、建築にはない面白さを見出した。建築を学びながら、建築そのものではなく植栽の道へと進んだのは、この写真集の影響だった。

 

◆DJそしてACID JAZZ

大学時代はクラブDJをしていた。「1からクリエイトする作業も素晴らしいが、選ぶこと、組み合わせること、そういう目利き感もクリエイティブなものだと思う。」なるほど、太田さんの植物に対する考え方、植栽の哲学は、DJ的なものがある。

例えばキョウチクトウは、園芸植物としては古い植物だが、太田さんは、矮性のキョウチクトウを、あえて今おもしろい素材として注目している。ジンジャーリリー(Hedychium ハナシュクシャ)やカンナなど使い古された素材も、再評価し、葉色や形に特徴ある品種を選び、庭づくりに活かす。このあたりは、DJが昔の曲を現代的な再解釈でかける感覚に似ている。

クラブミュージックの世界では、「刺激的な」という意味でしばしばACIDという言葉を使う。ACID HOUSE 、ACID JAZZという具合に。太田さんが好んでかけた「ACID JAZZ」は80年代から90年代にかけて流行した音楽のジャンルだ。古いJAZZの演奏に新しいビートを加えてリミックスしたり、ラップなどと組み合わせて、新しい音楽を生み出した「挑発的な」「新しい」JAZZ。

『庭っていうのは、本来の自然ではない、とても人工的な空間だと思うんです。世界中から好きな植物を寄せ集めてきて組み合わせ、都合の悪い虫は殺したりもします。なのに「自然を愛する趣味」という顔をするのは偽装だと思う。潔くない。自然ではあり得ない、違う自生地の植物を色や形のコントラスト大きく組み合わせて作られる「すごく人工的な見た目の植栽」。でもよく見てみると各々の植物が意外と環境に適応して新しい植物の社会を作っているような「新たな調和」、「新しい自然」が感じられる庭をつくりたい。そんな「挑発的で刺激的な自然」を表したくて「ACID NATURE」と名づけました』

ACID NATUREのACIDは、ACID JAZZのACIDからつけられた。どんな説明よりもこの事実が、太田さんの庭・植栽をよく表しているように思う。

(その3に続く)

 

(左)矮性のキョウチクトウ Nerium oleander ‘Petite Salmon’

(右)斑入りのジンジャーリリー Hedychium ‘Vanilla ice’

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

太田敦雄 おおた・あつお 1970年群馬県伊香保町生まれ。植栽家。立教大学経済学部卒業後、一度は東京でサラリーマンになるが、実家の設計業を引き継ぐために群馬に戻り、業務の傍ら前橋工科大学で建築デザインを学ぶ。趣味で植栽を楽しんでいた自庭「乙庭」が建築家・藤野高志氏の目にとまり、植栽を依頼されたことから、本格的に植栽家としての活動を始める。現在は建築と植物の融合を目指す植栽家として活動しながら、独自のセレクトによる植物の販売も行う。「ACID NATURE乙庭」代表。

ACID NATURE 乙庭のホームページはこちら

 

このブログについて